近所の小川に、今年もあいつがやって来た。
あいつというのは、一羽の鷺の事である。
鷺には色々な種類があって、
渡るのと渡らないのといるらしいのだけど、
冬になるとやって来るので、あいつは渡る方だろう。
今の家に住み始めた最初の年は、大変びっくりした。
いつも通る遊歩道沿いの小川に、
ちょっとした人だかりが出来ていたので何かと思ったら、
皆写真を撮ったり、あーとか、おーとか言いながら、
一羽の鷺を見ていたのである。
田舎育ちの私にとって、それは衝撃的な光景だった。
私だけではなく、おそらく地方出身の者にとって、
鷺という鳥は、冬になると徒党を組んで現れては、
無目的な様子で禿げた田んぼをウロつきまわっている、
といった印象の生き物で、
「なんだ鷺か」とか、「また鷺か」と言われる事はあっても、
決してチヤホヤされるような鳥ではないのである。
その鷺が、なぜかチヤホヤされてる。
そういえば、東京で鷺を見るのは、私も初めてかもしれない。
なるほど、都会育ちの人たちには珍しいのか、と思った。
でも、何か引っかかった。
そもそも鷺は、グループ行動が常であるはずなのに、
なぜこの鷺は、単独行動なのだろう?
それで、ピンときた。
あの鷺は、チヤホヤされたいがために、
孤高の鷺を気取っているのではないか?
群からはぐれたという可能性もない事はないけれど、
そういうのは、見ればわかる。雰囲気で。
やつは明確な下心をもって、自らの意思で群を外れ、
敢えて鷺率の低い地域を渡り歩いている、
人間でいうところの、面倒なタイプに違いないのである。
私は腹を立てた。
それは、母国ではからっきしそうな外国人男性が、
日本でチヤホヤされてブイブイいわせているのを
見た時と同じ種類の腹立ちだった。
「なーんだ鷺か!」
と、子供のように言いたい気分になったけれど、
愉し気に鷺を見る人たちに水を差すのは悪いので、
私はそれをお腹におさめた。
あれから3年、あいつは毎年欠かさず、チヤホヤされにやって来る。
せいぜい、やつが冬眠中のアメンボを食べる等の
卑怯行為をはたらかないように、目を光らせるのみだ。









