面倒な鷺 2015.01.07

sagi2

近所の小川に、今年もあいつがやって来た。

あいつというのは、一羽の鷺の事である。

鷺には色々な種類があって、

渡るのと渡らないのといるらしいのだけど、

冬になるとやって来るので、あいつは渡る方だろう。

 

今の家に住み始めた最初の年は、大変びっくりした。

いつも通る遊歩道沿いの小川に、

ちょっとした人だかりが出来ていたので何かと思ったら、

皆写真を撮ったり、あーとか、おーとか言いながら、

一羽の鷺を見ていたのである。

田舎育ちの私にとって、それは衝撃的な光景だった。

 

私だけではなく、おそらく地方出身の者にとって、

鷺という鳥は、冬になると徒党を組んで現れては、

無目的な様子で禿げた田んぼをウロつきまわっている、

といった印象の生き物で、

「なんだ鷺か」とか、「また鷺か」と言われる事はあっても、

決してチヤホヤされるような鳥ではないのである。

 

その鷺が、なぜかチヤホヤされてる。

そういえば、東京で鷺を見るのは、私も初めてかもしれない。

なるほど、都会育ちの人たちには珍しいのか、と思った。

 

でも、何か引っかかった。

そもそも鷺は、グループ行動が常であるはずなのに、

なぜこの鷺は、単独行動なのだろう?

 

それで、ピンときた。

あの鷺は、チヤホヤされたいがために、

孤高の鷺を気取っているのではないか?

群からはぐれたという可能性もない事はないけれど、

そういうのは、見ればわかる。雰囲気で。

やつは明確な下心をもって、自らの意思で群を外れ、

敢えて鷺率の低い地域を渡り歩いている、

人間でいうところの、面倒なタイプに違いないのである。

 

私は腹を立てた。

それは、母国ではからっきしそうな外国人男性が、

日本でチヤホヤされてブイブイいわせているのを

見た時と同じ種類の腹立ちだった。

 

「なーんだ鷺か!」

と、子供のように言いたい気分になったけれど、

愉し気に鷺を見る人たちに水を差すのは悪いので、

私はそれをお腹におさめた。

 

あれから3年、あいつは毎年欠かさず、チヤホヤされにやって来る。

せいぜい、やつが冬眠中のアメンボを食べる等の

卑怯行為をはたらかないように、目を光らせるのみだ。