外を歩いていると、時々象みたいな匂いがする事がある。
動物園の、あの、象の匂いだ。
きっと、ゴミの匂いとか、土の匂いとか、
鳩の匂いとか、犬のフンの匂いとか、
色々な匂いが配分よく混じって、そんな匂いになるのだろう。
でも、見えない象がいるのかもしれない、と思う事もある。
そう考えた方が、面白いからだ。
見えない象は、何をしているのだろう?
何を考えているのだろう?
期間限定の透明生活だったら、楽しんでいるかもしれない。
無期限だったら、悲しい気持ちでいるかもしれない。
それとも、もう、すっかり慣れてしまっただろうか?
象の匂いがした時は、私は大げさに鼻をクンクンして、
不思議そうに辺りをキョロキョロ見回す事にしている。
もしも、象が楽しんでいるのだとしたら、
そんな人間を見て、より一層楽しいだろうし、
もしも、悲しい気持ちでいるとしたら、
匂いだけでも気づく人間がいるという事を、伝えたいからだ。
ほんの少しだけど、見えない象のなぐさめになるかもしれない。
象の匂いは、春先によく遭遇する。
もう、そろそろだ。
いつ何時、見えない象とすれ違っても良いように、
さり気なく、でも分かりやすく、
クンクンキョロキョロする準備を、しておかなくてはならない。
