ウシとの駆け引き 2014.12.13

beer

スーパーに行った帰り道、ウシに会う。

 

“ウシ”は、近所の野良猫だ。

牛柄なので、ウシと呼んでいる。

 

ウシは、時々私が住んでいる集合住宅の敷地内を、

すっとんきょうな顔でウロついたり、

一階の住人が留守にしている昼の間、

ちゃっかりベランダに入り込んでは、昼寝をしたりしている。

出会ってから数年になるけれど、近付くと、相変わらず逃げて行く。

私たちの距離は、出会った時から変わらない、5mくらいのままだ。

 

ところがウシが、なぜか今日は逃げないのである。

5mくらい先、片方の前脚を上げた中途半端な姿勢のまま、

すっとんきょうな顔でこちらを見つめて、じっと動かない。

 

どうやらウシは、私が持っているスーパーのビニール袋に

惹きつけられているようなのだ。

“その中に、わたしのための、魚肉ソーセージが、

入っているのですか?”

というような顔つきで、こちらを伺っている。

 

私はなんだか面白くなってきて、

(さぁ、どうかな?気になるのなら、確かめにおいで)

というような顔つきで、ビニール袋をガサガサと揺らしてみた。

 

ウシは、相変わらず片脚をあげたまま、

行くか行くまいかと迷っているのだろう。

鳩のように体を前後に動かしはじめた。

“そのビニール袋から、魚肉ソーセージを取り出して、

見せてくれたなら、わたしは、今すぐ、

そちらに、向かうつもりでございますけどね”

 

ビニール袋の中は、実のところ缶ビール数本のみだったけれど、

距離を縮めるためには、時には嘘も必要だ。

私はいかにも魚肉ソーセージが入っているような素振りで、

ビニール袋を再び揺らした。

(虎穴に入らずんば虎子を得ず、だよ)

 

ウシは、魚肉ソーセージの味を思い起こして、

いよいよ興奮してきた様子だ。

鳩の動きが増してきたので、よくわかる。

“あなたは、わたしを、だまくらかそうと、

してるんじゃ、ないでしょうね?

証拠を見せて、下さいよ”

 

そんな駆け引きが、しばらく続いたけれど、

どうにも進展がなさそうなので、

ウシには悪いけれど、一抜けして帰る事にした。

暇というわけではなかったし、

正直、駆け引きに飽きてしまったのだ。

 

あのあとウシは、どうしただろうか?

私たちの距離は、結局今日も変わらないままだ。