作業中、あるはずの白い絵の具が見つからない。
よくある事だ。
絵の具箱の中をガサゴソと探す。
なかなか見つからないので、思わず口に出す。
「白、白、白…」
床に落っこちてはいまいかと、机の下を覗き込む。
「白、白、シロー!」
なんだか、シロという名前の犬を
呼んでいるような気がしてきた。
「シーロ、シロ、シロー」
シロがどこかに行ってしまって、
悲しいような気持ちになってきた。
私は今も、今までも、
シロという犬を飼った事なんてないのに。
絵の具の事など、どうでもよくなって、
シロについて考えた。
シロは白くて、中くらいの大きさで、
少し愚鈍だけど、とても気のいい犬なのだ。
空のお皿をずっと舐めてしまうような、
ボロボロの毛布が、何よりも気に入っているような、
素朴な性質の犬なのだ。
遠吠えが下手クソで、むせているようにしか見えない、
不器用な犬なのだ。
あー可愛いなぁ。シロに会いたいなぁ。
歌の歌詞ではないけれど、探すのをやめると、
見つかるというのはよくある事で、
白い絵の具は、目の前の机の上に転がっていた。
絵の具なんて、なんだ。
無くしたって、また買えばいいんだ。
シロはお金じゃ買えないんだ。
と、いうような気持ちになった。
失うどころか最初から存在すらしない、
シロを失った喪失感で、私の心はいっぱいだ。
不思議だなぁ。
