シロを失う 2014.11.30
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作業中、あるはずの白い絵の具が見つからない。 よくある事だ。 絵の具箱の中をガサゴソと探す。
なかなか見つからないので、思わず口に出す。 「白、白、白…」
床に落っこちてはいまいかと、机の下を覗き込む。 「白、白、シロー!」
なんだか、シロという名前の犬を 呼んでいるような気がしてきた。 「シーロ、シロ、シロー」
シロがどこかに行ってしまって、 悲しいような気持ちになってきた。 私は今も、今までも、 シロという犬を飼った事なんてないのに。
絵の具の事など、どうでもよくなって、 シロについて考えた。 シロは白くて、中くらいの大きさで、 少し愚鈍だけど、とても気のいい犬なのだ。 空のお皿をずっと舐めてしまうような、 ボロボロの毛布が、何よりも気に入っているような、 素朴な性質の犬なのだ。 遠吠えが下手クソで、むせているようにしか見えない、 不器用な犬なのだ。 あー可愛いなぁ。シロに会いたいなぁ。
歌の歌詞ではないけれど、探すのをやめると、 見つかるというのはよくある事で、 白い絵の具は、目の前の机の上に転がっていた。
絵の具なんて、なんだ。 無くしたって、また買えばいいんだ。 シロはお金じゃ買えないんだ。 と、いうような気持ちになった。
失うどころか最初から存在すらしない、 シロを失った喪失感で、私の心はいっぱいだ。 不思議だなぁ。 |
