夕方、商店街を歩いていると、
珈琲豆店に入ろうとするおじさんの背後で、
女子高生3人組が、
「気持ち悪いよ」「え〜可愛いよ!」
「気持ち悪いよ」「え〜可愛いよ!」
と繰り返している。
少し離れた位置にいる私にも聞こえるくらいだから、
おじさんには確実に聞こえているはずだ。
おじさんの複雑な気持ちを思って、
いたたまれない気持ちになったその時。
おじさんの足元を、チョロリと駆け抜ける灰色の塊が見えた。
灰色の塊は、店先に飾られた樽の影に隠れた。
ネズミだ。
そうか。女子高生たちは、ネズミを見ていたんだ。
可愛いなぁ、と思った。
その子たちも、いつもは気持ち悪いと思うネズミも、
ついでに本当は関係なかったおじさんも。
珈琲豆店も、ガヤガヤとした商店街も、
ベタベタとした夏の夕方の空気も全部、可愛いと思った。
