小雨の降る中、駅に向かって歩く。
小川沿いの、いつもの散歩道を通る。
梅雨時になって、シロウを見かけなくなった。
少し寂しい。
小川にかかる小さな橋を、リュックを背負った外国人男性が、
こちら側に向かって小走りで渡って来る。
傘はさしていない。
高校だったか大学だったか、英語の授業で先生が、
「外国人はあまり傘をささない」と言っていたけれど、
本当なのだなぁ、などと考えていると、
その外国人男性が、私を追い越しながら、
Tシャツを脱いで上半身裸になったから、驚いた。
肩に立派な肩毛が生えていたから、また驚いた。
そんなに体毛の濃い人ではなかったから、さらに驚いた。
アメンボは、手のひらに毛が生えていて、
それで水に浮く事が出来ると聞いた事がある。
あんなに立派な肩毛なら、小雨くらい弾きそうだなぁ、
と思ってはっとした。
これは、アメンボからのメッセージではないだろうか?
去年の初冬、季節外れのアメンボを見てはしゃぎ、
春になったらまた探すんだ、などと言っておきながら、
すっかり忘れていた。
季節は流れて、もう初夏だ。
痺れを切らしたアメンボが、メッセージを送ってきたのではないだろうか?
という事は、あの男性はアメンボの精なのだろうか?
痩せ型に、スラリと長い手脚。
よく考えなくても、アメンボに似ている。
男性は、小道を曲がってどこかに消えてしまった。
物陰で、人目を忍んでアメンボの姿に戻る様子を想像してみた。
その後、来た道を戻って小川に帰るのかと思ったら、おかしかった。
アメンボは飛べるらしいから、きっと飛んで帰ったろう。
アメンボの小川を横目に見ながら、駅に向かった。
明日晴れたらアメンボを探そう、と思った。
