そろそろアメンボが目覚める頃かと、
いつもの小川沿いを歩いて探す。
アメンボは、まだいない。
アメンボは、まだ眠っている。
冬眠に失敗して、そのまま目覚めない
アメンボもいるのだろう。
ちょっとこわい。
サクラの木の根元に、
イボみたいに飛び火した蕾が開いていた。
上の桜は、まだ咲いていない。
きれいというよりも、ちょっとこわい。
モクレンの花のつぼみが、膨らんでいた。
遠くからみると、白い鳥が、
鈴生りになっているみたいに見える。
可愛いというよりも、ちょっとこわい。
ネコヤナギの花穂が出ていた。
残酷で大きな生き物が、
小さな生き物の群れをむさぼり食べて、
尻尾だけ食べ残して枝に刺したみたいだと思った。
触ってみたら、柔らかかった。
本当に尻尾みたいだな、と思ってしまった。
本当にちょっとこわくなった。
物語ではこういう時、
小さな生き物の群れの中で、
1番小さな子だけが逃げ延びて生き残って、
いつか大きな生き物に復讐するのだ。
それもまた、いつかの春の事だろう。
大きな生き物は、食べ損ねた小さな生き物を、
高を括りながら、でも、いつもどこか怯えながら、
春を過ごすのだろう。
いるはずのない小さな生き物と大きな生き物に、
どちらもがんばれ〜、と思いながら帰った。
